翻訳コラム by 石川正志
トップページに定期的に連載している「翻訳コラム」を、バックナンバーとしてまとめました。このコラムでは、金融の世界で使われる独特の表現を一つずつ取り上げ、説明いたします。

金融業界では固有の表現や用語が使われており、辞書などをみても、なかなか適切な訳語が見つかりません。証券・運用業界での実務経験、経済新聞の購読、業界紙の読み込みなどを通じて、「この英語はこの日本語を充てるとピッタリくる」という事例を紹介して参ります。
rhetoric - レトリック

最近、金融レポートを訳していて、rhetoricという言葉を見かけないでしょうか?

これを読んでピンときた人は、金融翻訳にある程度コミットしている人ではないかと思います。

Abe’s rhetoric、Kuroda’s rhetoricというような形で登場しています。

rhetoricを辞書で引くと、まず「修辞学」という意味が載っていますが、「安倍首相の修辞学」では何のことだかわかりません。

新聞を読んでいて、黒田日銀総裁の積極緩和に関する記事で、「レトリック(修辞学)」というカタカナ表記がありましたが、金融翻訳の中で「レトリック」と訳すのは、個人的には違和感を覚えます。では何と訳すか。

一言では訳し難く、自分は意味を考えて日本語にしています。

意味としては

・言葉やコミュニケーションを通じて、経済政策をわかりやすく伝え、市場や人々のマインドに働きかけること

・「マネーの量を2年で2倍に」、「2%の物価上昇率目標」などのわかりやすい言葉で政策を表明し、市場の期待に働きかけること

といった意味かと思います。

Abe’s rhetoric や Kuroda’s rhetoricを敢えて体言・名詞形で訳すとすれば、以下のような感じでしょうか。

「安倍首相による経済再生、デフレ克服に向けた政策論」

「黒田日銀総裁によるコミュニケーションを通じた市場の期待への働きかけ」

上記の理解、訳は正しくないというご指摘もあるかも知れません。率直なところ、当方も確信はありません。

最後に、訳語とは離れますが、白川前日銀総裁が退任時の記者会見で「中央銀行が言葉で市場を思い通りに動かすという政策観には危うさを感じる」と述べていますが、Kuroda’s rhetoricが効果を発揮している今こそ、一度は思い起こしても良い言葉ではないでしょうか。

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