翻訳コラム by 石川正志
トップページに定期的に連載している「翻訳コラム」を、バックナンバーとしてまとめました。このコラムでは、金融の世界で使われる独特の表現を一つずつ取り上げ、説明いたします。

金融業界では固有の表現や用語が使われており、辞書などをみても、なかなか適切な訳語が見つかりません。証券・運用業界での実務経験、経済新聞の購読、業界紙の読み込みなどを通じて、「この英語はこの日本語を充てるとピッタリくる」という事例を紹介して参ります。
その他、震災に伴う頻出用語

「東日本大震災」について書いたところで、震災関連で度々登場する用語をまとめておきたいと思います。

1)サプライチェーン
震災の影響で、日本製の部品の供給が遅れ、国内および海外の製品の生産に影響が出ました。「サプライチェーン」は頻出用語です。「サプライチェーン」という言葉は、すでに日本語表現として市民権を得ているようにも思いますが、やはり「サプライチェーン(供給体制)」とか「サプライチェーン(供給網)」とした方が丁寧ではないかと思います。

私自身は「サプライチェーン(製品部品や素材などの供給網)」と訳しています。

「サプライチェーン」の後に続く言葉は、「分断」、「寸断」、「混乱」です。

「震災によるサプライチェーン(供給体制)の分断」
「大地震と大津波によるサプライチェーン(供給網)の寸断」

「部品等の供給障害(disruption)」などの言い方も見られます。

この辺りは、もうセットで用意しておいた方が良いかも知れません。

2)被害
地震の「被害」についても、幾つか表現を用意しておいた方が、一つのレポートの訳文として変化があって良いと思います。

「東日本大震災の影響/被害」
「東日本大震災が日本経済に大きな爪痕を残した」

翻訳原稿に、ときどきtragedyという単語も出てきます。「悲劇」でも良いですが、私は「惨禍」という表現はどうかと思っています。

「東日本大震災の惨禍」

3)復旧・復興
地震関連で、今一番テーマとなる言葉は、この「復旧・復興」でしょう。「回復」、「復旧」、「復興」、「東日本大震災からの持ち直し」など、recovery関連の用語もまとめておいた方が、良いと思います。

4)原発事故関連
福島の原発事故(Fukushima disaster)も、わかっているようで、いざ訳すとなると、正確に表現しにくいものです。基本となるのは、
「福島第1原子力発電所の事故」

ですが、実際に問題となったのは
「原発事故による放射能汚染」
「放射性物質の飛散や汚染水の漏れ」
「放射性物質の放出・漏れ」
「原発の破損」
でした。

今後は、「原発の再稼動(reactor restart)」や「電力不足(power shortage)」などの表現をよく使うようになるのではないかと思います。

長くなりましたが、震災関連の言葉をまとめてみました。

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