翻訳コラム by 石川正志
トップページに定期的に連載している「翻訳コラム」を、バックナンバーとしてまとめました。このコラムでは、金融の世界で使われる独特の表現を一つずつ取り上げ、説明いたします。

金融業界では固有の表現や用語が使われており、辞書などをみても、なかなか適切な訳語が見つかりません。証券・運用業界での実務経験、経済新聞の購読、業界紙の読み込みなどを通じて、「この英語はこの日本語を充てるとピッタリくる」という事例を紹介して参ります。
deleverage - デレバレッジ

金融翻訳をしていて、訳しづらいなと思う単語の一つがleverageです。最近のサブプライム関連の記事や文章によく出てきます。

leverageを英和辞典で調べますと、「てこの作用、てこの力」という意味が出ていますが、およそ金融関係の文章で、leverageに対して「てこ」という言葉を充てて、意味が通ることはありません。

英和辞典の項目の2番目に「借入金によって投資をする」というような意味が載っており、たいていは、こちらの意味になるのですが、実際の翻訳でどう表記するかとなると、結構難しいです。

割と馴染みのある例としては、LBO(レバレッジド・バイアウト)という言葉があります。買収先候補の企業の資産や将来のキャッシュフローを担保にして、銀行等から借り入れを行い、その資金で当該企業を買収することを意味します。LBOが翻訳文中に出てきた場合、それを丁寧に訳すとすれば、LBO(買収先企業の資産を担保にした借入等による買収)という書き方になります。

最近、このleverageに加えて、タイトルに掲げたdeleverageという言葉も頻出するようになりました。

leverageは「レバレッジをかける」という表現で、日本語として定着しつつある感もあり、「レバレッジ」とカタカナで訳しても、まだ通るかもしれませんが、deleverageを「デレバレッジ」とカタカナにしても、何のことだかわかりません。やはりここは日本語の説明が必要ではないかと思います。

意味としては、「レバレッジ」の逆で、「投資のために借り入れてきた資金を返して、その投資を辞めること」を指します。

これまでヘッジファンド等は借り入れによって投資資金を増やし、それを証券化商品などに投資してリターンを追及してきたのですが、昨今の信用市場の崩壊を受けて、その投資を手仕舞い、資金を返さなければならなくなった。こうした状況が「デレバレッジ」です。

では翻訳の中で、どのように訳すか。「投資資金の回収」とか「資金の引き上げ」という書き方でどうかと思っています。あるいは文脈によって、「借入金返済のための投資の解消」というふうな書き方も考えられます。

financial markets have been deleveraging 金融市場では、投資家が借入金返済のため、ポジションを手仕舞う動きが進んできた(ちょっと長い訳ですが)
とか
deleveraging caused stock price declines 金融機関やヘッジファンドによる投資資金の回収によって、株価は軟調な展開となった
という感じです。

deleverageを「デレバレッジ」とカタカナで訳しても、自然に意味が通る日が、いずれ来るのかもしれません。

(追記)
その後、いろいろ新聞や各種レポートを読んでいる中で、「レバレッジの解消」という言葉もみかけました。文脈によって、「レバレッジの解消」でも意味がすんなり通るかと思います。

(追々記)
先日、ある紙面で「金融機関がファンドへの貸付金回収に動いた」という表現を見ました。デレバレッジは、資金を貸す側から見れば「貸付金の回収」という言い方になるかと思います。

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