翻訳コラム by 石川正志
トップページに定期的に連載している「翻訳コラム」を、バックナンバーとしてまとめました。このコラムでは、金融の世界で使われる独特の表現を一つずつ取り上げ、説明いたします。

金融業界では固有の表現や用語が使われており、辞書などをみても、なかなか適切な訳語が見つかりません。証券・運用業界での実務経験、経済新聞の購読、業界紙の読み込みなどを通じて、「この英語はこの日本語を充てるとピッタリくる」という事例を紹介して参ります。
I (第一人称)- 訳さない

ポートフォリオマネジャーやファンドマネジャーが執筆するファンド等の運用報告書では、”I”という第一人称が、しばしば使われます。

運用担当者として「私はこういうスタンスで運用している」、「私はこう考え、こういう投資行動を採った」という文脈でよく使われるのですが、この場合の”I”をどう日本語で処理したら良いかが、結構厄介な問題になります。

例を挙げましょう。

I still remain cautious about Japanese stock market, but I am starting to see value in some sectors.

英文の運用報告書では、おそらく「私は(I)」という表現を使っても違和感がないのだと思われますが、日本語の投資家向けレポートで、「私は」と書くのは、若干不自然さを感じます。

実質的には主語は「私は」なのですが、こういう場合は、敢えて”I”を訳さないのが自然ではないかと思います。上記の例では、

「日本株式市場の見通しには依然として慎重ですが、一部のセクターには割安感も出始めています。」

という処理の仕方になります。

どうしても主語を入れないと、文章がうまく流れない場合、自分は「当ファンドでは」と、その「ファンド」を主語にすることがよくあります。

I believe pharmaceuticals are now relatively attractive.
「現在当ファンドでは、医薬品セクターに比較的、投資妙味があると考えます。」

という感じです。その他、「当運用担当者としては~と判断します」というふうに、「運用担当者」を使ったり、或いは能動態を受動態に変えて訳したり、文脈に応じて、文章に違和感が生じないよう、適宜、処理しています。

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