翻訳コラム by 石川正志
トップページに定期的に連載している「翻訳コラム」を、バックナンバーとしてまとめました。このコラムでは、金融の世界で使われる独特の表現を一つずつ取り上げ、説明いたします。

金融業界では固有の表現や用語が使われており、辞書などをみても、なかなか適切な訳語が見つかりません。証券・運用業界での実務経験、経済新聞の購読、業界紙の読み込みなどを通じて、「この英語はこの日本語を充てるとピッタリくる」という事例を紹介して参ります。
write-off, write-down - 評価損の計上

前回のコラムから随分と間が空いてしまいました。お読み頂いていた方には申し訳ありません。

4月にサブプライムローンのことに触れましたが、今回はそれに関連するwrite-off、write-downという言葉を採り上げたいと思います。

サブプライムローン問題の影響で金融機関が多額の損失を出しています。最近の翻訳の中で、その損失を意味する言葉として、このwrite-off、write-downがよく出てきます。金融、会計関連の翻訳をやっている人であれば、「償却」や「精算」などの言葉が思いつき、何となくわかっているつもりなのですが、サブプライムローン問題との絡みで出てくると、意外に自分の理解が曖昧と感じる言葉ではないかと思います。

意味としてはサブプライム関連の「損失」あるいはその「損失の処理」を意味する言葉ですが、新聞等を読んでいますと、このサブプライム関連損失にも、いろいろな種類があることがわかります。

まず大きく分けて、実際に損失として処理している「実現損」と、評価上の損失である「評価損」に分かれます。英語でsub-prime write-offと言った場合、多くは後者の「評価損」を指しているように思います。日本語では、「サブプライムローンを組み込んだ証券化商品の評価損計上が続いた」というような使われ方をします。

一方の「実現損」ですが、新聞を詳細に読みますと、実現損には幾つか種類があることがわかります。実際の売却で発生した「売却損」のほか、「引当金の計上」や「減損処理」なども含まれます。

翻訳の英文原稿でwrite-off、write-downが出てきた場合、この損失処理の種類を具体的に区別していないケースが多いように思います。

対象となる金融機関にとって、それが評価損なのか、減損処理なのか、売却損なのか、文脈からはわかりないことが多く、訳をどう処理したらよいのか悩むのですが、私は現状、基本的に「評価損の計上」を使っています。文脈によっては、「サブプライム関連の損失」とやや一般的な表現で処理することもあります。

尚、「評価損」はサブプライム関連だけでなく、最近はプライムの住宅ローンでも発生しているようです。

write-off、write-downについては、私もまだ混乱している部分もあって、もう少し検討する必要があるのですが、最近、頻繁に出てくる用語なので、今回敢えて採り上げてみました。

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